橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

目黒「ホルモン道場 闇市倶楽部」

classingkenji2007-11-22

目黒駅に近いビルの前を通りかかった時、「ホルモン道場 闇市倶楽部」という文字が目に入った。これは、ヤミ市時代から続いている店なのか、それとも「闇市」を看板に掲げただけなのか。さっそく地下街に入ってみると、ヤミ市の移転先としか考えられないような、間口の狭い店が建ち並んでいる。その一軒が「闇市倶楽部」で、ヤン、ウルテ、ドーナツなど、他では見ないような部位を炭火で焼いて食べさせる店らしい。だいぶ食べたあとだったのだが、ちょっと入ってみる。ドーナツというのは、豚の喉仏とのこと。いわゆる「ナンコツ」の、いちばん太い部分を薄切りにしたもののようだ。かりかりになるまで焼いて食べてくださいとのことで、その通りにするとぱりぱり香ばしくてなかなか美味しい。このビルは「サンフェリスタ目黒」といい、かつてこのあたりにあった三幸横町というヤミ市起源の飲み屋街が、一九九四年に再開発されてできたとのこと。古い居酒屋街は、こうして消え、生まれ変わっていく。今も各地で再開発は進められている。再開発がどうしても避けられないなら、せめてこの地下街のように、当時を忍ばせる庶民的な形に生まれ変わってほしいものである。(2007.11.14)