橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

「東京画」(ヴィム=ヴェンダース監督・1985年)

classingkenji2007-10-15

これは小津安二郎に傾倒するドイツの映画監督が、現代の東京に小津の足跡をたどるドキュメンタリーである。監督自身がナレーションを担当。笠智衆とカメラマンの厚田雄春へのインタビューも収録され、小津映画の撮影の様子が詳細に語られている。撮影されたのは1983年で、当時の東京の風景や風俗が記録されているのもおもしろいところ。ヴェンダース蝋細工食品サンプルにずいぶん関心を持ったようで、工場を訪ねて製造工程を克明に記録している。新幹線が古い民家のそばを通るところや、原宿の竹の子族なども登場し、記録映像としてもおもしろい。さて前半部分に、飲み屋街のシーンが出てくる。そこに重ねられるのは、次のようなナレーション。

小津映画には よくこんな路地が登場する
父親が酒を飲むシーンだ
まず いつもどおり撮影してみた
その後 小津風に撮ってみた
小津が常に使った50ミリは やや望遠効果があるレンズだ
まったく違って見える
思いもしなかったような風景だ

私もこのブログのために、また純粋に趣味として、よく居酒屋街の写真を撮るが、とかく上半分のような写真になりがちだ。手ぶれしやすいので難しいのだが、たまには小津風を意識して撮るようにしたいものだ。

東京画 デジタルニューマスター版 [DVD]

東京画 デジタルニューマスター版 [DVD]