橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

江古田「半兵ヱ」

classingkenji2007-09-27

不思議な居酒屋だ。東北地方と東京を中心に展開するチェーン居酒屋なのだが、「昭和」がテーマということで、写真の通り、店の前の看板は「狂った果実」と「青い山脈」だ。店内にも、古い映画のポスターやら鉄製の看板やら、アンティークなグッズの数々が所狭しと飾ってある。旧型の白黒テレビがあり、「ウルトラセブン」のビデオを流している。そのすぐ下の席に座ったのだが、あまりに懐かしいので、しばし画面に見入ってしまった。そして、何もかも安い。焼酎が一八〇円、ホッピーセットが二八〇円で、中一八〇円、外一五〇円。トリスがあって一九〇円、デンキブランは二〇〇円だ。「天羽乃梅」を使ったと思われるハイボール(二八〇円)があるのだが、これを「謎のハイ・闇ハイ」と称して売っている。そんなに怪しいものだろうか。料理も安い。焼きとん五〇円というのは、学生時代の値段だ。ただし肉は小さく、焼きすぎで美味しくない。駄菓子やジャンクフードもあり、カレーせんべい二〇円、魚肉ソーセージ六〇円など。いちばん高いのは、いかバター焼き三九〇円だろうか。
いくら昭和三〇年代の居酒屋でも、店内に金鳥の看板が飾ってあったり、映画のポスターがべたべた貼ってあったはずはない。これは、当時の街並みや商店街を偲びながら飲める仕掛けということだろう。奥には座敷があって、よく見えなかったが、昔の民家の居間を模した造りのようだ。渋谷、吉祥寺、上野、高円寺など、都内に九店舗あるとのこと。詳しくは、半兵ヱのホームページへ。