橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

飯山温泉「元湯旅館」

classingkenji2007-09-07

本の原稿を書き上げた後、月末締め切りの論文を二日遅れで仕上げ、これで仕事は一段落。家で本を読んだり音楽を聴いたりするのも悪くはないが、たまには休日らしいことをしたい。というわけで、今日は日帰り温泉に出かけることにした。飯山温泉は、小田急線の本厚木駅から車で二〇分のところ。私の住む経堂から本厚木までは四〇分だから、歩く時間などすべて含めても一時間半とかからない。小田急線沿線以外に住む人なら、新宿から一時間半と考えればいい。ここに、個室に四時間程度滞在して懐石料理のコースを楽しむことのできる温泉旅館がいくつかある。その一つが、この元湯旅館である。ネット検索で発見し、良さそうなので出かけることにした次第。予約したのは七三〇〇円の「湯上がり美人コース」(笑)。滞在時間は、午前一一時から午後三時まで。もちろん、予約したのは妻である。男だけでも利用できるようだが、気が引けるようなら他のコースもある。本厚木駅の近くまで、迎えに来てくれるという。車で二〇分も走ると、都会の喧噪をすっかり忘れることのできる静かな山と渓流に囲まれた温泉旅館が現れる。敷地はかなり広い。この広い敷地に、一戸建て感覚の客室が並び、部屋からは庭や池、近くの山や川を眺めることができる。
入浴した後、まずはビールである。ビールは部屋の冷蔵庫にサッポロ、キリン、アサヒが二本ずつ備え付け。生ビールは電話すれば届けてくれるが、アサヒのようだ。温泉上がりのビールは、最高だ。そして、料理が届く。まず前菜は、枝豆、鴨ロース、地元特産のタニシ煮など。そして、焼き鮎。刺身盛り合わせには、まぐろ、ホタテに加えて鮎の洗いが入っているのがうれしい。こうなると、冷酒だ。地元の「盛舛」に依頼して造ってもらったプライベートブランドの生貯蔵酒である。冷たい茶碗蒸しは、卵にフォアグラを混ぜ、蟹と枝豆を飾ったもの。賀茂茄子と魚介類のグラタンは、賀茂茄子と海老、ホタテを一口大に切り、あんかけ風に仕上げてから茄子の皮に詰めて焼いたもの。仕上げは、牛肉のすき焼き風鍋。すっかり満腹してしまった。
お風呂は、山の景色を眺めることのできる露天風呂と大浴場がある。ここの温泉はPH11を超える強アルカリ泉で、かなり強い苦みを感じる。浴場が二つあって午後一時に男女を入れ替えるから、この昼のコースでも両方に入ることができる。二間ある広い部屋に通され、しかも戸建て風になっているから、ゆったりと食事ができる。二人でビールを三本、冷酒を一本飲み、一八〇〇〇円ほど。帰りももちろん、駅まで送ってくれた。四季折々に来てみたい宿だ。次は、紅葉の頃にしようか。(2007.9.2)