橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

本郷「加賀屋」

classingkenji2007-08-22

ちょっと用事があって、本郷へ。帰りに、「加賀屋」へ寄る。これは、学生時代にときどき来た店だ。少しきれいになったが、さほど雰囲気は変わらない。この日は訳あって酒が飲めなかったので、ホッピーと食事のみ。夜の居酒屋でこんなことは、初めてかもしれない。客は、近くのサラリーマンと東大の学生・院生・若手教員などが中心。隣の三〇代カップルは、誰が次の学部長になるか、某先生はやるつもりがないらしいなどと話をしている。「白い巨塔」に比べると、ずいぶん慎ましやかな世界ではある。
雰囲気もメニュー構成も、いかにも加賀屋だ。厨房には、男性の板前が五人並んで仕事をしている。焼きとりと煮込みは、おそらく全店共通。その他、魚料理、揚げ物、炒め物などいろいろ。しかし、店員の態度に問題がある。若い男女の店員が、雑談して大声で笑っている。若い女の「ふざけんなよぉ〜」という大きな声に、どんな酔客かと振り向くと、二〇歳ほどの茶髪の店員だった。板前は、煙草をくわえながら仕事をしている。こんな板前に、刺身を出してほしくない。そして炭酸はニホンシトロンではなく、ホッピー炭酸。この店は、加賀屋としてはハズレかもしれない。ただし、料理の味は悪くないので、気にならない人はどうぞ。
写真のように、店の入り口の上には、加賀藩の梅鉢紋の提灯が並ぶ。花心に付いている険の形が本物と少し違うが、ほぼ忠実。こんな派手なものは、他の加賀屋で見たことがないような気がするのだが。(2007.8.20)