橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

荻窪「金魚」

classingkenji2007-08-18

高円寺の次は、荻窪へ。ここからなら、タクシーで環八に出て簡単に帰れる。荻窪の北口は、だいぶ変わったとはいえ、ヤミ市の雰囲気を残す一角が残る場所。まずは、有名な屋台の焼鳥屋「鳥もと」へ。焼鳥は、すでに焼いてあるものを焼き直すスタイル。ビールはスーパードライ。レモンハイを頼んだら、安物の缶チューハイのような味がした。というわけで、早々に退散。すぐ横の新しい立ち飲み屋「金魚」に入ってみる。
この店は、南欧風立ち飲み屋とでも言うべきか。古いバラック風の建物を改造した店で出す料理は、アンチョビポテト(三〇〇円)、生ハム(六〇〇円)、小海老のオイル炒め(四〇〇円)、レバーのマリネとパテの盛り合わせ(四〇〇円)など。スタッフの出で立ちも、イタリアン風。ワインはイタリアのオーガニックなど数種類あ、グラスで三五〇−六〇〇円。ビールはサッポロで、焼酎や酎ハイもあるが、何となくワインの気分になる。客は、若い女性のグループと家族連れなど。荻窪で飲むことがあれば、行きか帰りに立ち寄る価値がある。しかし、狭い店にスタッフが四人。あまり儲からないだろうな。いずれはレストランをもちたいというような若者たちなのだろうか。居酒屋は、ワーキングプアによって支えられているといっても過言ではない。若者の働く居酒屋へ行くときは、こんな複雑な思いが消えない。(2007.8.12)