橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

祖師谷「たかはし」

classingkenji2007-07-26

小田急線の祖師ヶ谷大蔵を北側に出て、商店街を少し歩く。スーパー「オオゼキ」の手前を右へ。通りの右側に、この店はある。創業は一九五〇年で、現在の店主は二代目。息子さんと二人で切り盛りしている。このあたりでは有名なやきとん屋である。祖師谷にはかつて円谷プロがあり、監督や役者たちがこの店に集まっては、地球侵略の作戦などを話し合っていたという。L字型カウンターに十二席ほど。奥には、座敷もあるようだ。
串焼きは、一二〇円。カシラ、シロ、ハツ、タンなどの定番のほか、アブラやマクラもある。注文すると、二本ずつ焼いてくれる。珍しいのは、野菜ものの種類が多いこと。シシトウ、ピーマン、トマト、なす、アスパラ、しいたけ、ズッキーニなど。ズッキーニは、オリーブオイルを垂らして焼く。串焼きのほかには、漬け物があるだけ。ビールはサッポロで、大瓶が六八〇円、大生は珍しい特大ジョッキで、たしか八〇〇円ほどだった。ホッピーもあるが、ボトルのある人専用のようだ。主人は、小さめの炭火をこまめに管理しながら焼いていく。みるみるうちに焼き上がり、ややあっさり目のタレをつけて出す。カシラは絶妙の焼き加減で、ジューシー。シロはとろけるような柔らかさ。うまい。
客層はちょっと山の手的で、ドレスシャツ姿の男性一人客か二人客が多い。上着なしのネクタイ姿も二人ほど。ちょっと素敵なご夫婦が一組。地元の人に愛されてきた、地元の名店である。焼きとん好きなら、遠征する価値がある。(2007.7.25)