橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

浅草・煮込み通り

classingkenji2007-05-06

ふと思い立って、浅草へ。ゴールデンウィークの浅草は、家族連れや観光客が多く、浅草にもこんなに人が集まることがあるのかと思うくらい賑わっている。もちろん、外人客も多い。天丼や蕎麦、お好み焼きなどの有名店の前は、長蛇の列。しかしこちらは、取材で六本木や日本橋周辺などかなり歩いた後だったので、のどがカラカラだ。まずはビールを飲まなくては。
浅草には昼から飲める店が多いが、なかでもそんな店の集中するのが、浅草二丁目の浅草公園東側の飲み屋街。通称「煮込み通り」または「ホッピー通り」で、その名の通り、どの店にも煮込みとホッピーがある。昼間から煮込みとホッピーの店がずらりと開店しているようすは壮観である。こんな渇いたコンディションの時は、ビールの銘柄にこだわりたいので、サッポロを置いている店を探して入ったのが「三幸」という店。浅草は吾妻橋工場のお膝元だっただけに、伝統的にアサヒが強いが、この界隈はそうでもなく、サッポロ、キリン、アサヒがほぼ三分の一ずつといったところ。この店は大きめのコの字型カウンターに一五席ほど、小上がりにテーブルが二卓、外にもテーブルが二卓で、ほぼ満員。この通りの居酒屋にもうひとつ共通するのは、どの店にもテレビがあって、競馬放送をやっていること。ここはWINS浅草のそばで、馬券を買った後で飲みながら結果を確認し、次の戦略を立てようという客が集まるのである。この店でも客のほとんどが競馬新聞を手にしている。客は二四人いたが、明らかに競馬と関係なさそうなのは、外のテーブルにいた男性三人女性一人の若者四人組だけ。後はすべて、カジュアルな服装の男性で、競馬新聞を手に競馬放送に見入っている。年齢は、六〇代が三人、五〇代が一〇人、三〇代が四人、二〇代が三人といったところ。野球帽をかぶり、耳に鉛筆を挟むという古典的スタイルの人もちらほら。
この通りの居酒屋は、どの店もほぼ値段が同じで、ビール(生・中瓶)が五五〇円、ホッピーやサワー類は四五〇円とやや高めで、中焼酎は三〇〇円。煮込み五〇〇円、モツ焼きと焼き鳥がそれぞれ三本で五〇〇円、肉じゃが、つぶ貝煮も五〇〇円、もろきゅう四〇〇円、冷奴三五〇円など。
外を通り過ぎていくのは、花やしきへ向かう家族連れ、デートの途中で通りかかったカップルや観光客、そしてWINSへ向かう男性たちなど。ときおり人力車が通り過ぎる。ちょんまげのかつらをかぶった着物姿の男が、江戸時代そのままの形の担ぎ屋台で饅頭を売っている。こんなシチュエーションで昼から酒を飲むというのも、たまにはいいものである。生ビール、ホッピーと中お代わり、モツ焼きで、メニュー通りの一八〇〇円だった。(2007.5.5)