橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

「おふろ」

classingkenji2007-04-15

二軒目に向かったのは、「おふろ」。前回来たのは去年の七月だから、だいぶご無沙汰である。今日は、何となく赤のグラスワインという気分だった。しかしこの店、ボトルワインは一〇〇種類以上もあるのに、赤のグラスワイン(一〇〇〇−一二〇〇円)はわずか五種。ワインは、開けるとその日のうちに飲みきる必要があり、グラスで出すのが難しいのは分かるが、ちょっと淋しい。妻と二人で五種をひととおり飲み、さらに焼酎と泡盛、そして甘口の白ワインを一杯追加注文。料理は、馬肉のタルタル(九五〇円)と、鶏肉のパテ(一〇〇〇円)。以上で一二〇〇〇円ほど。料理のクオリティは高く、値段以上の価値があると思うが、酒はやや高く感じる。おしゃれなワインレストランといった趣の店にもかかわらず、写真のように「居酒屋」と称している。しかし、こう称する以上は、酒の価格設定を少し考えてもらいたい。
この店は、入って左にカウンター一〇席、右側には一六人ほど座れるテーブル席がある。カウンターには、カジュアルの四〇代女性二人組、おしゃれ着の四〇代女性二人組、ブランド物を着た三〇代女性とスーツにネクタイ姿の四〇代男性、おしゃれ着の女性とスーツにネクタイ姿の男性の五〇代カップル。テーブル席は、まず文壇・論壇批評で盛り上がる日大の教授たちらしい五−六〇代男性五人組、二〇代から三〇代のカジュアル女性四人組、おしゃれな男女二人ずつの二〇代四人組、そしてカジュアルな二〇代カップル。前回来たときは日曜日だったので、おしゃれな若者たちが中心だったが、金曜日の今日は、仕事帰りや中年カップルなどがやや多い。ワイン通と思われる客も、少なくない。途中で帰った男性一人客など、白と赤一本ずつを飲み、四〇〇〇〇円近くを払って出ていった。隣のカップルも、プピーユ・アティピックという珍しいキュヴェを飲んでいる。この店は、妻のお気に入り。一人で来ようとは思わないが、ちょっとした接待用にも使える店である。(2007.4.13)