橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

須田町「けむり」

classingkenji2007-04-10

今日は、出版社との打ち合わせで小川町へ。行ったのは、燻製料理の店「けむり」である。須田町一丁目のこの一角は、奇跡的に空襲の被害を免れた場所で、あんこう鍋の「いせ源」、鳥鍋の「ぼたん」、甘味処の「竹むら」などがある。「いせ源」の隣にあるこの店も、戦前からの建物と思われる木造三階建て。これを改造して最近できた店のようだ。住居地図を調べると、その前は給食サービスの店だったらしい。
入り口には木を植え、よしずを立てかけて、古びた雰囲気を出している。中に入ると、左側に厨房とカウンター。右側にはスタンドバーによくあるような、高さのある小さなテーブルに椅子で、座り心地が良いとは言えない。メニューはベーコン、鴨、サーモン、タコ、穴子、もち、沢庵などの燻製が中心で、それぞれ四〇〇円から一〇五〇円。燻製の五点セット(一〇〇〇円)、海の幸のスモーク五点盛り(九〇〇円)を注文したが、量は少なめ。穴子(一〇五〇円)も、小さめのものが一本だけ。味は悪くないが、コストパフォーマンスが良いとはいえない。これは飲み物も同じで、ピルスナーグラスの生ビールが六八〇円は高すぎる。焼酎は一〇種ほどあり、安いもので五八〇円。座り心地も悪いし、高く付きそうなので、早々に二軒目へ移動することにした。
客は、仕事帰りの若い女性グループと、やはり若手中心の男女混成グループ。若い女性がおしゃべり中心に使うなら、悪くはないかもしれないが、私はもう一度行こうとは思わない。タイムスリップ感覚のこの界隈に、マッチした店と言えるかどうか。どうせなら、老舗酒場の向こうを張り、戦前の居酒屋を復活させたような正統派の店を作ってほしかった。(2007.4.6)