橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

「和shoku。の水」

classingkenji2007-03-31

経堂駅のすぐ近くにある和食の店。前から気になっていたのだが、上京した父親の接待ということで、今日はじめて入ってみた。注文したのは、「の水会席コース」四八〇〇円。最初の前菜盛り合わせは、ふぐの煮こごり、蓮根豆腐、鰺の棒寿司、空豆の芋寿司、山芋の擂り流し、めかぶの酢の物。どれも、ていねいに作られていて、出汁がきいている。蒸し物は、スモークしたあん肝の茶碗蒸し。あん肝のスモークとは意外だが、悪くない。茶碗蒸しも、出汁がよくきいていて美味い。お造り(写真)は、スモークしたしめ鯖とホタルイカ穴子梅肉添え、久里浜蛸の煮物、帆立貝。蛸の下にあるのは醤油のジュレで、必要に応じてこれをつけて食べる。邪道かもしれないが、箸使いが下手ですぐに醤油を撥ねさせてしまう私には、都合が良い。焼き物は、筍と豚ロースの重ね焼き。筍の皮の下には燃料が敷かれていて、炎が揺れている。揚げ物は桜の花と葉を使った桜しんじょと山うど。締めは、稲庭うどん。デザートは黒ごま豆腐の赤蜜がけ。出汁がよく効いた料理が多く、またスモークをうまく使っている。一品料理には、いぶり大根や鶏レバーのスモークなどもある。私と同い年らしい店主はよく勉強しているようだし、腕も良いようだが、店名がちょっと軽薄。「モー娘。」じゃないんだからね。「和食 の水」で良いと思う。
店に入ると、左側に七席のカウンター、右に四人掛けのテーブル席が二卓、小上がりにも四人掛けのテーブルが二卓、奥の個室は五席。カウンターには三〇代から五〇代の男性が座り、居酒屋的に一品料理で酒を飲んでいる。次には私も、一人であそこに座ってみよう。隣のテーブルには、女性のグループ。奥の個室には、家族連れがいたようだ。日本酒は、飛露喜、出羽桜、田酒、洌など。焼酎も一〇種類ほどあり、ワインとシャンパンも置く。しかし、ビールがスーパードライなのは残念。薄味の和食にはドライが合うと思っているのかもしれないが、あの金属的な不味(まずみ)は、出汁の味を殺す。しかし懐石の店だから、日本酒を飲んでいれば問題はない。コースには他に、前沢牛、すっぽん、ふぐを中心にしたものもある。(2007.3.29)