橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

「みますや」

classingkenji2006-12-13

今日は毎日新聞社で特集記事「縦並び社会」を書いた記者たちと座談会ということで、神田「みますや」へ。出版部の編集の司会で、記者たちは取材の感想、私は読んだ感想や格差社会のこれからについて、いろいろ話す。といっても、飲みながらなので話はあっちへ行ったりこっちへ飛んだり。編集者が、適当にまとめておいてくれるだろう(笑)。
今日の席は、入り口を入って突き当たりを右側にUターンした場所のテーブル席。この店は何度も来ているが、こんな所に席があったとは知らなかった。料理は刺身、馬刺し、おでん、そして桜鍋のコースだった。この店の馬肉は、冷凍ではないということか、見かけはすき焼き用の薄切り牛肉と似ている。臭みはまったく感じず、すっきりした味わい。ビールのあとは、八海山をボトルで頼み、注がれるままに飲んでいたらけっこう回ってしまった。
いい機会だと思い、酒を運んできたご主人に、空襲でこの近辺が燃えたとき、近所の人たちが集まって火を消してくれたという話は本当ですかと聞いたところ、やはり本当だそうだ。配給でしか酒が飲めない時代のこと、「みますやが燃えたら酒が飲めなくなる」と必死の消火活動の結果、手前で火は消えたとのこと。美談でもあり、また人々の酒に対する執念も感じさせる。この店の客層はどうですか、と聞かれるが、なにしろ奥まった席なのでよく分からない。しかしいつ来てもこの店は、たいがいネクタイをしたサラリーマンが多い。年齢層は全体的に高め。落ち着いた神田の名店。いずれ建て替えの時期も来るだろうが、この雰囲気は失わないで欲しいものだ。(2006.12.12)