橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

三軒茶屋のヤミ市

classingkenji2007-10-03

三軒茶屋は、世田谷区最大のヤミ市があったところである。場所は茶沢通り沿いの太子堂で、警視庁の資料によると一六四メートルの公道沿いに、許可を受けたものだけで三四店が営業していた。世田谷全体では九八店だから、かなりの集積である。ここは都心と東京西郊をつなぐ交通の要所だから、おそらく世田谷区各地から農作物などが集まってきたのだろう。現在は、その南側の三軒茶屋二丁目、世田谷通りと玉川通りに挟まれた三角形の一角に、零細な商店と飲食店が密集している。縦横に行きかう路地には、それぞれ仲見世商店街、三茶小路飲食店街、ゆうらく通りなどの名前が付く。もともとこのあたりもヤミ市だったのか、それとも太子堂から移転してきたのかは定かではないが、場所から考えればもともとヤミ市だったのではないかと思われる。衣類や日用品の店の多い仲見世商店街の建設は一九五〇年とのこと。その際に、移転してきた店もあるかもしれない。現在も、その雰囲気はまさにヤミ市横丁である。写真でご覧の通り、世田谷で最も高い建物であるキャロットタワーを背景に広がる様は、サンシャイン六〇を背景にした池袋の美久仁小路や人世横丁を思わせる。行ったのは八時ごろだったが、客がよく入っている店もいくつかあるものの、どちらかといえば空いている店が多い。すでに再開発準備組合が結成され、再開発は時間の問題となっている。せいぜい、今のうちに見ておかなければ。(2007.10.2)