橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

経堂

tanacalm

タナカさんという若い女性がひとりで切り盛りする、落ち着いた雰囲気のバーである。店名は、店主の名前と「静けさ」「落ち着き」という意味の英語をつなぎ合わせたもので、実にこの店にはふさわしい。タナカさんは、穏やかな癒し系のキャラクターで、仕草も…

「バンチキロウ」

仕事に手間取り、買い物も夕食の支度もできなかった。どこで夕食にしようかと考えたあげく、久しぶりにこの店へ行くことにした。経堂駅の改札を左に出ると、前方にすずらん通りの入り口がある。そこから歩いて一分とかからない。和菓子の「亀屋」の二階にあ…

「らかんてい」

経堂駅の北側、商店街からすこし入った住宅地にある。駅前の商店街を左に進み、細い通りに入ったあたりで右手に曲がってすぐなのだが、最初は見つけにくいかもしれない。左側にカウンターが八席ほど、右にテーブルが二卓、奥には座敷がある。魚貝料理が中心…

灯串坊で飲む「おこげ」

帰国した日、最初に飲みに行く店はどこにしようか。これがなかなか難しい。三ヶ月のご無沙汰だから、刺身は外せない。しかし、もつ焼きも外せない。ところが、刺身ともつ焼きを高いレベルで両立させる店は少ない。少なくとも、家の近所にはない。かといって…

「tanacalm」

近所に最近できたバー。ギネスの樽生と、アイリッシュウイスキー数種類を置いていて、広い意味ではアイリッシュパブといっていいだろう。店名は、店主の名字と「静けさ」という単語を掛け合わせたもののようだ。ギネスは、パイントとハーフパイントを選べる…

「くいものや楽」経堂本店

今日の多彩な居酒屋チェーンの先駆けとなったのは、この「くいものや楽」だろう。居酒屋チェーンといえば、セントラルキッチンから運ばれたものを、さほど技術もないアルバイトが温め直すか簡単に調理して出す。しかも、どの店へ行ってもインテリアからメニ…

「黒ぶたや」

経堂駅南側の農大通りに、最近できた店。黒豚料理がメインというので、行ってみた。写真は豚ヒレたたき(八〇〇円)で、外側だけ焼き、中は完全に生という一品。豚は寄生虫がいるので火を通さないといけない……というのは昔の話らしいが、生のものを出す店は少…

「ガラム・マサラ」

経堂西通りにある、インド料理の店。店主はインド人のハサンさんで、もともとは工学系の留学生として日本に来たらしい。料理についても研究熱心で、メニューは豊富。フラッシュムービーを多用したホームページも作っておられる。料理は何でも美味しい。十種…

「きはち」

経堂西通りの、焼きとんの店。小田急線沿線の世田谷で、焼きとんというと祖師谷の「たかはし」が有名。ここの店主は「たかはし」と関係があるらしいが、何かトラブルでもあったのか、店の関係者か常連客と思われる人物が、ネット上の掲示板で「たかはし」の…

「天ん洋」

やきとり横丁の後は、自宅近くの「天ん洋」(前回)へ。こちらではスズキの刺身(八五〇円)、あんきもポン酢(六八〇円)、ふぐの天ぷら(九五〇円)、そしてここでしか食べられない大ニンニクの天ぷら(六〇〇円・写真)をいただく。酒は、まずサッポロ黒ラベル、そ…

西通りのロックバー

経堂西通りというのは、経堂駅の南口を出てすぐ右に曲がったところから始まり、途中で小田急線のガードを北側へくぐって二手に分かれ、千歳船橋方向へ伸びる通りである。商店・飲食店と住宅が混在した、寂れたとも落ち着いたとも形容できる通りだが、ここに…

「レプロット」で飲むシューベルト

少々長旅だったが、年末に東京へ帰ってきた。休みに東京見物をという義妹と姪もいっしょである。料理をするのも面倒なので、四人でお気に入りのイタリアン「レプロット」(前回)へ。四人だから、料理もいろいろ注文できる。今日は、たまたま入荷していたニュ…

ブラッスリー・パラディ

経堂駅の南側、農大通りと違って新宿方向にやや戻る感じに伸びる通りを本町通りという。いちおう商店街なのだが、店はまばらで交通量が少ない。その一角に、「ブラッスリー・パラディ」という店があった。いつも赤白三種類ほどのグラスワインがあり、さらに…

「灯串坊」で「魔王」を飲む

焼酎好きなら誰でも知っている、鹿児島は白玉醸造の芋焼酎「魔王」。「幻の焼酎」として知られ、量販店やネットショップでは一升瓶が二万円、四合瓶が一万円ほどで売られていることがある。しかし「灯串坊」では、普通の値段でボトルキープできる。正確な額…

レプロット

今日は出張帰りの義妹を迎え、経堂のイタリアン「レプロット」で食事。前回も書いたが、若い夫婦が営む気さくなリストランテだが、けっこう本格的な料理も出す。今日は、つぶ貝のガーリックソテー、焼きトリッパなど前菜を三種、パスタを二種、メインにスズ…

「和食れすとらん 天狗 馬事公苑店」「キム・クロフォード・マールボロ・ピノ・ノワール」

今日は、近所(と言っても、自転車で10分ほどかかるが)の「天狗」へ。私は「天狗」チェーンを展開するテンアライド・コーポレーションの株主で、半年に一回、一万円分のチケットが送られてくる。株価は低迷していて、一〇〇〇株で四〇万円を切っているから、…

「マルキ市場」

今日は久しぶりに焼肉。自宅から歩いて五分ほどのところにある「マルキ市場」である。前回も紹介したが、この店には入場料というものが設定されていて、一律八〇〇円。その代わり、料理や飲み物は格安になっている。今日はまず、食前のスープ代わりに参鶏湯…

「太田尻家」

経堂駅から北側に出て、すずらん通りを行く。五分ほど歩くと、左側に「灯串坊」があり、さらに三分ほど歩くと、右側にこの店がある。店名は「おおたじりけ」と読む。太田さん・田尻さんのご夫婦が二人で営むことから付いた名前である。店のインテリアは、椅…

「灯串坊」で飲む「釈云麦」

夜、原稿をもって「灯串坊」へ。推敲しながら、串焼きを食べ、焼酎をいただく。塩の串焼きは、右から順に、シロ、タン、カシラ。相変わらず、旨い。これで九〇円だから、ありがたい。そして焼酎は、福岡の麦焼酎、「釈云麦(じゃくうんばく)」。麦の香りが強…

ある焼鳥屋

名前は、あえて記さない。経堂駅から歩いて一分のところにある焼鳥屋だが、このあたりでは珍しく、ブルーカラー労働者が客の中心である。私はときどき、帰り道でホッピーを飲みに立ち寄る。 今日いた顔見知りの常連らしい三人の客の会話である。仕事によって…

「コントワー松喜」

いちおうフレンチとしておいたが、ここはフレンチと和を融合させた店である。オーナーシェフの菅沼豊明氏は、「料理の鉄人」で鉄人・中村孝明に勝ったことがあり、経堂にこの店と、正統派フレンチの「グラン・コントワー」をもつ。本日のコースは、まず前菜…

経堂純情酒場 太陽堂

経堂駅ホームの南側、線路沿いを西に入ったところに細い道がある。ここには、イタリアンやフレンチ、焼鳥屋やラーメン屋など十数軒の飲食店があるが、そのいちばん西よりの建物の二階にあるのが、この店。強いて分類すれば無国籍居酒屋ということになろうが…

「赤堤」

小田急線経堂駅の南口を出てすぐの雑居ビルの地下には、居酒屋や飲食店が数軒並んでいるが、その中の一軒。店名の「赤堤」とは近くの地名で、豪徳寺から経堂にかけての高級住宅地。駅前の割には寂れた感じのこの地下街のなかでは、いちばん元気な店である。…

「和shoku。の水」

経堂駅のすぐ近くにある和食の店。前から気になっていたのだが、上京した父親の接待ということで、今日はじめて入ってみた。注文したのは、「の水会席コース」四八〇〇円。最初の前菜盛り合わせは、ふぐの煮こごり、蓮根豆腐、鰺の棒寿司、空豆の芋寿司、山…

「百姓亭」

経堂は道が複雑で、直角に交わるような場所が少ない。これは、世田谷区全体にいえることである。もともと、区画整理される前の農道がそのまま道路になっているわけだから、仕方がない。だから、慣れない人はすぐ道に迷う。とはいえ、基本は駅の北側に伸びる…

「レプロット」

二年ほど前、近所に開いた小さなイタリアンの店。テーブルが五つほどで、何とか一四人座れるだろうか。若い夫婦が二人でやっている気さくな店で、リストランテではなく「イタリア食堂」と称する。今日の料理は、ツブ貝と小松菜のガーリックソテー、ホタルイ…

「あさひや」「いちふく」

いまは昔、経堂に「あさひや」という居酒屋があったという。インパール作戦の生き残りという店主が、安く美味くをモットーに、焼酎は一六〇円、牡蠣の串焼きが一八〇円など、信じられないくらい安く、しかも美味しい料理を出して、地元の酔っぱらいたちに慕…

「灯串坊」

夕食の後、どうしても串焼きが食べたくなって「灯串坊」へ。いつもの通り、カシラ塩と白タレを注文し、焼酎をロックで飲む。焼酎は、キープしてあった「山ねこ」。一杯分しか残っていなかったので、長崎で麦焼酎の味に目覚めた私は、「中々」をボトルでとる…

「灯串坊」

「灯串坊」と書いて、「とうせんぼう」と読ませる。名前の通り、串焼きがメインの店。入り口の内側に「なぜかよらずには帰れない/だから灯串坊」と張り紙がある。串を「せん」と読ませるのは無理があると思うが、まあいいだろう。そういえば、串という文字…

「大根や」

大学の仕事が少し遅くなり、八時ごろ経堂駅に着く。ほぼ同じ頃に経堂駅に来ていた妻と落ち合ったが、これから食事を作るのは面倒だというわけで、久しぶりに来てみたのがこの店。経堂駅からだと、すずらん通りを二分ほど歩き、左に入ったところにある。店内…