橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

東急線沿線

奥沢「さいとう」

DAITENさんに二軒目に案内されたのは、焼きとんの店「さいとう」。木造の黒光りした壁、紺色の暖簾に玄関障子、まんまるの赤ちょうちんという、なんとも風格のある外観で、「やきとり さいとう」という大きな白文字だけがやや現代的。中に入ると、少し暗めの…

西小山「八十八」

今日は、居酒屋ブログ「居酒屋探偵DAITENの生活」のDAITENさんと目黒駅で待ち合わせ。東急目黒線沿線の居酒屋を案内していただけるというので、楽しみにしていたのである。DAITENさんは演劇人で、劇団の咲良さん、元哉さんも同行。まず目指したのは、…

三軒茶屋「戎参」

一仕事終えたので、運動不足の解消も兼ね、自宅から三軒茶屋まで歩く。距離は、五キロほどだろうか。一時間少々で到着する。まず向かったのは「久仁」だったが、五時半頃だったので、すでに満員。そこで新しい店でも開拓しようかと、例の世田谷通りと玉川通…

世田谷「酒の高橋」

世田谷区役所のあるあたりの地名が世田谷区世田谷で、最寄りの駅は東急世田谷線の世田谷駅。世田谷線は、渋谷と二子玉川を結ぶ路面電車だった玉川電車(玉電)の支線として生まれたもので、三軒茶屋と下高井戸の間、約五キロを結んでいる。現在でも環七を渡る…

祐天寺「ばん」

この日の二軒目は、祐天寺の「ばん」。二月に続いて、二回目の訪問。驚いたのは、店主も店員も、私のことを覚えていたこと。大繁盛店だというのに、ご主人は手が空くと客に話しかけ、いろいろ気を遣ってくれる。三人の中国人女性もチームワークよく働いてい…

自由が丘「金田」

今日は、出版社の編集者と打ち合わせと称して飲むことに。スタートはここ、自由が丘の名店「金田」である。この店、いつもカウンターの上に、毎日変わるメニューが二つ折りにしておかれている。このメニューは、じっくり鑑賞するに値する。季節の魚や野菜の…

祐天寺「ばん」

昭和三〇年代の話である。ある居酒屋で、なぜか炭酸が飛ぶように売れている。それを訝った炭酸会社の社長が、その店を訪れてみると、生レモンを焼酎に搾り入れ、炭酸で割って飲ませていた。そこからアイデアを得て、店の店主にもアドバイスをもらって開発さ…

三軒茶屋「小桜」

一般的にいってヤミ市横丁には、名酒を売り物にする店は少ない。場所柄、「高いけれど美味い酒」というのを求めてくる人は少ないだろう。少々薄汚れた哀愁漂うヤミ市横丁、古びた居酒屋の佇まいには、安酒とモツ焼き、それに普通の居酒屋料理が似合う。もち…

三軒茶屋「兆治」

三軒茶屋のこの飲食店街を歩いていると、まず目にとまるのはこの「兆治」の赤ちょうちんである。中に入ると、壁に高倉健主演映画のポスターの数々。「居酒屋兆治」を初め、「夜叉」「駅station」「冬の章」など。一人で切り盛りするご主人が、健さんのファン…

三軒茶屋のヤミ市

三軒茶屋は、世田谷区最大のヤミ市があったところである。場所は茶沢通り沿いの太子堂で、警視庁の資料によると一六四メートルの公道沿いに、許可を受けたものだけで三四店が営業していた。世田谷全体では九八店だから、かなりの集積である。ここは都心と東…

三軒茶屋「でこ」

三軒茶屋の交差点からキャロットタワーの方へ一本入ったところに、「すずらん通」という飲食店街がある。入り口には、恵比寿様らしき顔が二つ並び「喰うてかへんか」という文字が入った、ユーモラスなゲートがあるからすぐ分かる。昭和の雰囲気の漂う一角で…

三軒茶屋「久仁」

今日は仕事を早々に切り上げて、三軒茶屋へ。三軒茶屋は世田谷区随一の商業地域で、二七階建ての商業・オフィスビル、キャロットタワーがランドマーク。ここはもともと交通の要所で、渋谷と大山を結ぶ大山道から登戸道が分岐する地点だった。地名は、ここに…

自由が丘「鳥へい」「金田」

自由が丘の東京書房へ、ネットで予約していた本を取りに行く。『東京路上細見』全五巻が五〇〇〇円。神保町あたりだと一冊一五〇〇円ほどで売っているから、割安である。そういえば去年、自由が丘へ来て「金田」へ行ったのも、東京書房の帰りだった。しかし…

世田谷「酒の高橋」

原稿の書き出しが決まらないので、資料と紙束をカバンに入れ、自転車で「酒の高橋」へ。六時少し前だが、カウンターはほぽ満席、テーブル席は半分ほど埋まっていた。まずはサッポロ黒ラベルと刺身三点盛りを注文。お通しの小さく切ってくるりと丸めた秋刀魚…

大衆酒場「酒の高橋」

禁酒明けには一日早いのだが、まあいいだろうというわけで自転車に乗って世田谷へ。ここでいう世田谷というのは、世田谷区世田谷。世田谷区の中心部で、世田谷区役所のある界隈のこと。私の自宅から自転車で十分少々のこのあたりは、東急世田谷線というほと…

自由が丘「金田」

名店との評価が高く、「金田酒学校」の異名をとる。もう十数年前から行ってみたいと思っていたのだが、今日ようやく、自由が丘の古書店に用事ができたついでに、立ち寄ることができた。白地に「金田」と名が小さく入った上品なのれんをくぐり、すりガラスの…