橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

小田急線沿線

豪徳寺「祭邑」

日本に帰ってから、まず最初にしたことは、近所のなじみの店を一通り回ることだった。 店の人と親しく話すような店には、三ヶ月いなくなることを伝えておいた。しかし、常連とはいえそれほど親しくない店には、伝えていない。だから、一度顔を出して安心させ…

千歳船橋「登美や」

小田急線は、焼きとん屋不毛地帯である。皆無というわけではない。祖師ヶ谷大蔵の「たかはし」、豪徳寺の「祭邑」など、いい店もあるにはある。しかし焼きとん屋くらい、それぞれの駅前に二、三軒ずつくらいあってほしいと思う私には、物足りない。自宅の最…

下北沢「楽味」

この店は、下北沢南口のすぐ近く、三井住友銀行の地下にある割烹料理店。前回来たのは、一昨年の八月だったから、ずいぶんになる。下北沢の南口一帯は、下り坂に沿って若者たちの集まるスポットが密集し、通行人のほとんどが若者という他に例を見ない個性的…

豪徳寺「住吉」

帰りに少し飲んでいこうと、豪徳寺で下車。すぐ近くの世田谷線山下駅前の「住吉」に入り、ひとつだけ空いていたカウンター席に座り、ホッピーを注文すると、左隣の人から「橋本さん」と声をかけられる。なんと、「古典酒場」の座談会でお会いしたY-tabeさん…

ニホンシトロンのレモン

ニホンシトロンといえば、ガス圧が強く、焼酎を多めにして酎ハイを作っても、炭酸の刺激がしっかり感じられるソーダで、下町の伝統ある大衆酒場の定番だが、これにレモン味のバージョンがあることを知る人は少ない。これを出してくれるのは、豪徳寺の「祭む…

下北沢「てっちゃん」

学期が始まって、とたんに忙しくなった。八時ごろまで大学に残って雑用を片付け、帰りに下北沢で途中下車。目指すはヤミ市横丁の、下北沢北口市場である。最近できたと思われるやきとり屋が、ここ「てっちゃん」。店名の通り、先日行った吉祥寺「てっちゃん…

豪徳寺「祭邑」

会議が長引いて、帰りが遅くなった。今日はどこかで飲んで帰ろうと思っていたのに、時間がない。でも、モツ焼きとホッピーへの欲求は抑えきれない。というわけで、近場の「祭邑」に立ち寄る。遅い時間帯なので、もう種類が少ない。カシラ、シロ、ガツ、豚ト…

本厚木「十和田」

「元湯旅館」から車で本厚木駅まで送っていただいたあと、駅前商店街を散策。すると昼間からやっている居酒屋があり、店頭に掲げられたメニューには「ホッピー樽生」の文字を発見。これは、入ってみないわけにはいかない。入ってまず、壁一面に貼られた絵入…

飯山温泉「元湯旅館」

本の原稿を書き上げた後、月末締め切りの論文を二日遅れで仕上げ、これで仕事は一段落。家で本を読んだり音楽を聴いたりするのも悪くはないが、たまには休日らしいことをしたい。というわけで、今日は日帰り温泉に出かけることにした。飯山温泉は、小田急線…

豪徳寺「住吉」

ようやく原稿が完成した。図表込みで、約三三〇枚。一〇月には出版される予定である。完成祝い、と行きたいところだが、時間が中途半端だし、食べる予定の材料が冷蔵庫にたまっているので、近くで少しだけ飲むことにする。というわけで、以前から気になって…

豪徳寺「祭邑」

原稿の仕上げのため、豪徳寺へ。狭い店内はほぼ満員だったが、幸い壁際の角の席がひとつ空いていた。角の席はテーブルが広く使えるので、仕事には好都合。飲み物は、ホッピー。この店のホッピーは、写真のようにキンキンに冷えたジョッキに氷を少量だけ入れ…

祖師谷「たかはし」

小田急線の祖師ヶ谷大蔵を北側に出て、商店街を少し歩く。スーパー「オオゼキ」の手前を右へ。通りの右側に、この店はある。創業は一九五〇年で、現在の店主は二代目。息子さんと二人で切り盛りしている。このあたりでは有名なやきとん屋である。祖師谷には…

代々木上原「三貴」

代々木上原はちょっと高級めのレストラン、バーなどが多いが、ここは大衆酒場的な居酒屋。間口が広く、外にも席がある。中に入ると、右側にL字型カウンター、左側にテーブル席。壁一杯に品書きの短冊や木札が下がっている。店内は適度に古び、落ち着いた雰…

豪徳寺「祭邑」

世田谷は、居酒屋におけるモツ焼の比重が小さい地域である。これが「山の手」ということなのか、モツ焼を出す店自体が少ない。そのなかでうまいモツ焼を出す店はあるにはあるが、層が薄いだけにレベルの低い店もあり、ムラができるのは仕方がないのかもしれ…

消えた下北ガード下

久しぶりに、下北沢へ。まず北口市場へ行って、ガード下のおでん屋「せっちゃん」のその後を確認しに行くと、写真の通り、すでに取り壊されていた。淋しい気持ちを抑え、すぐ近くの同じような雰囲気の店へ。作りも広さも、よく似ている。聞いてみると、この…

下北沢「せっちゃん」

二月二六日の東京新聞に、「消える僕らのシモキタ 人情屋台せっちゃん 再開発で閉店へ」という記事が載った。下北沢北口に、ヤミ市そのままのおでん屋さんがあって、近く閉店して取り壊されるのだという。下北沢にはときどき行くのだが、南口専門で、これに…

下北沢「宿場」

今日は下北沢へ。南口を出て、店を物色しながら歩くと、若者向けのカジュアルものばかりを揃えた古着屋が店開きする通路の奥に、飴色に輝く大きな提灯が。気になって入ってみたのが、この店である。客はほとんどが若者たちで、私はどうやら最年長のようだ。…

下北沢「魚真」

私の家と経堂駅をはさんだ反対側に、有名な魚屋「魚真」がある。一二時半の開店時には、飲食店関係者が大挙して押し寄せ、空になった発泡スチロールの函が、次々に山積みされていく。この時間帯に行っても、威勢の良いプロたちの間にはさまれておろおろする…

下北沢「楽味」

集中講義の三日目は、根津の駅から小田急線直通に乗り、下北沢へ。地上はあいかわらず若者たちでごった返しているが、地下へ降りると別世界のような大人の空間。本格的な板前割烹の店として太田和彦も絶賛する、「楽味」である。 店はほぼ満員で、ちょうど出…

代々木上原「笹吟」

今日行くのは、代々木上原の「笹吟」。太田和彦によると、多彩で上質の料理とともに数々の名酒を楽しむことができる、居酒屋のニューウェーブを代表する名店とのこと。場所柄もあり、私がふだん好んで通う大衆居酒屋とは一線を画する。一人ではなんだか入り…