橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

2011-06-01から1ヶ月間の記事一覧

「樽一」の「浦霞・震災酒ノーラベル」

高田馬場で一九五九年に創業し、今は新宿に店を構える「樽一」は、「浦霞」を、初めて東京で紹介した店である。震災後は、蔵元から荷崩れで中身の分からなくなった酒を引き受け、「浦霞震災酒ノーラベル」として出している。中身は純米または純米吟醸クラス…

虎ノ門「サラマンジェ」

今日は、知人の日本人・フランス人夫婦と、虎ノ門のフレンチへ。この夫婦(とくに夫)、フランス料理には強いこだわりがあり、いい店をいろいろ探してくる。この店は虎ノ門の駅の近くだが、路地裏の分かりにくい場所にある。 日本人向けに味は穏やかに、量は少…

レバ刺しを我らに

仕事のあと、大衆酒場好きなら誰でも知っている名店の支店へ。壁にあるこの貼り紙は、素晴らしい刺身で評判だったこの名店の、非情なる現実である。 何の問題もなく何十年もレバ刺しをはじめとする生肉を提供してきた名店の数々が、同じような状況にある。知…

湯島「岩手屋本店」 「酔仙」完売

今日は、京都からのお客さんを連れて、今年三度目の「岩手屋」である。震災の後、酒問屋の在庫をかき集めてしのいできた「酔仙」も、とうとうすべて品切れ。壁には、こんなメッセージがあった。 店主は、酔仙酒造が津波に流される映像を見たときのお気持ちを…

湯島「岩手屋本店」 陸前高田のウニ

湯島の「岩手屋」を再訪して、たいへんなものをいただいてしまった。「酔仙」の地元で、津波で市街全体を破壊された陸前高田のウニである。震災前に獲れたものを、冷凍してあったのだという。アワビの殻に詰めてから焼いたもので、「やきかぜ」という。わず…

自由が丘「間」

「間」と書いて、「あわい」と読む。福島県川俣町で古くから闘鶏用に飼われていた軍鶏を、食用の鶏と掛け合わせて作られた川俣軍鶏を出す店だというので、入ってみることにした。実は先日、満員で入れなかったので、店の前まで来たのは2回目である。まずは燻…

『東京レトロ酒場』

ミリオン出版のムック。「レトロ」というところに焦点を合わせて、たんねんに店を集めている。広く知られた名店を網羅した上で、記事から見る限りこれらと遜色ないと思われる、あまり知られていない店をいくつも紹介しているのは立派。ちゃんと取材すれば、…

有楽町「銀楽」

二軒目を求めて、有楽町の丸三横丁へ。「銀楽」を外からちょっと覗いてみたら、あの高齢女性と中年男性の親子の姿がなく、別の中年男が店をやっている。気になって、入ってみた。以前は注文しなくてもデフォルトの串焼きがでてくる店だったが、今は注文に応…

新橋「身知らず」

森まゆみさんの『望郷酒場を行く』に紹介されていて知ったのが、この店。会津料理を出す新橋の居酒屋である。店主の山田信彦さんは会津出身で、一〇年ほど前に脱サラして開店した。店内には、会津の観光ポスターが所狭しと貼られていて、メニューにも鰊の山…

久しぶりのレバ刺し

例の食中毒事件以来、レバ刺しなどのモツの刺身を出さなくなった店が多い。店の人に聞くと「手に入らなくなった」「保健所の指導で出せなくなった」などという。何十年もの間、大衆酒場の定番として何の問題もなく供されてきたモツ刺しが、危機に瀕している…

高橋渡『東京シネマ酒場』

著者は、二〇〇七年まで恵比寿ガーデンシネマの支配人を務めていた人物。映画人である。だから居酒屋ガイド本でありながら、映画史の本でもある。冒頭に置かれたのは、新橋の「ダイヤ菊」。小津安二郎の愛した酒の名を冠し、蔵元から取り寄せる店である。そ…

石原たきび編『ますます酔って記憶をなくします』

以前紹介した『酔って記憶をなくします』の続編。mixiのコミュでの投稿から傑作を集めたものだから、第二集となるとややインパクトが弱くなるのは、仕方のないところだろう。とはいえ、今回も抱腹絶倒のエピソードが満載。朝になってバッグを開けたら、生き…

「さばの湯」の鯖缶

帰り道に「さばの湯」に立ち寄ったら、店の真ん中に金色に輝く缶詰の山。店主の須田さんに聞くと、震災で全壊した木の屋石巻水産から、瓦礫と泥に埋もれた缶詰を買い取り、常連客たちが集まって洗ってきれいにして、売り出しているのだとのこと。缶詰は、五…