橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

2011-02-01から1ヶ月間の記事一覧

大分「居酒亭 時」

高杉良の小説『生命燃ゆ』は、大分市にある石油コンビナート建設の中心を担った実在の技術者が主人公。建設が始まった頃、大分はホテルも旅館もない田舎町だった。そこで割烹料理屋と契約して別棟を借り受け、社員の宿泊所にあてたと書かれている。「こつこ…

大分「こつこつ庵」

次に行ったのは、太田和彦の本でも紹介されている有名店、府内城址近くの「こつこつ庵」である。まず、外観に驚かされる。堂々たる切妻屋根の木造建築だが、正面の壁面が古いホーロー看板で埋め尽くされている。店内にも所狭しと飾られているが、最近流行の…

大分「赤ダルマ」

次に向かったのは、焼酎の名店として知られる「赤ダルマ」。店に入ると、左右の壁にずらりとボトルが並んでいるのが目に入るが、焼酎に少し詳しい人なら驚くに違いない。入手困難な幻の名酒といわれる「村尾」「森伊蔵」「魔王」の一升瓶が、所狭しと並んで…

大分「ふぐやの居酒屋 ぶるーむ」

大分はふぐの本場でもある。次に入った「ぶるーむ」は、老舗ふぐ料理店が「ふぐやの居酒屋」と称して営む店だ。なるほど、居酒屋である。店の中心は一四席あるL字型のカウンターで、ここに座れば、板前たちがふぐを調理する様子を見ながら飲むことができる…

大分「遇の店 椿屋」

しばらく前のことになるが、「嗜み」の取材で行った大分の居酒屋を、いくつか紹介しよう。 まずは、「遇の店 椿屋」。駅に近いアーケード街から細い路地に入った、分かりにくい場所の小さな店。銀座の大分料理店「坐来」の店長に教えてもらったが、そうでも…

有楽町のガード下・今昔

新橋のあとは、有楽町のガード下。入ったのは「とん登運」である。ドイツ人夫はたいへん気に入って、はしゃいでいた。あとで聞いた話では、「これからは日本で居酒屋へ行くときはケンジの案内じゃないといやだ」と言ってたとか。 このあたりの様子は、二十数…

新橋「魚金本店」

今日は、昨年の十一月に満員で入り損なった「魚金本店」へ。知人の日本人とドイツ人の夫婦(海外在住)が、日本へ来ているというので、妻と四人で飲み会である。夫のほうは、初対面。 魚は、やはり美味くて安い。日本酒の種類も、季節ものを含めてけっこうある…

下北沢のバラック酒場

話は前々回に戻るが、「楽味」の次の二軒目は、北口市場へ行くことにする。もう立ち退いた店もあり、閉店したらしい店もあるが、駅寄りの一角には、まだバラック飲み屋が残っている。そのなかの一軒に入ることにした。 酒は焼酎、日本酒、ビール、酎ハイの四…

「卯波」と鈴木真砂女

川本三郎の新著を読んでいて、銀座の居酒屋「卯波」のことを思い出した。かつて銀座一丁目の細い路地にあった居酒屋で、俳人の鈴木真砂女さんが営んでいた。九〇歳を超えるまで店に立ち続けていたはずである。和風シュウマイと鰯の叩き揚げが名物で、客には…

下北沢「楽味」

「週刊現代」のグラビア特集が無事掲載され、今日は下北沢で編集者と打ち上げ。一軒目は、ここにした。下北沢は相変わらず若者でごった返しているが、通りから地下に降りたところにあるこの店は、完全におとなの店。地元の熟年夫婦や女性の二人連れなどが、…

桜台「秋元屋」

少し前に、野方の名店・秋元屋が桜台に二号店を出したという情報をキャッチした。店員が独立したのではなく、直営らしい。桜台といえば職場の近くで、歩いても一〇分くらいで行ける場所だ。いろいろ忙しかったり、あまりの寒さに歩く気がしなかったりと延び…