橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

2010-09-01から1ヶ月間の記事一覧

「希望の星」

「激安居酒屋」は、最近になって展開してきたチェーン店や新しい立ち飲み屋だけではない。以前から個人営業で頑張っている店がある。この店は、その典型のひとつだろう。 ビールは二五〇円だが、その他の飲み物はすべて一九〇円である。サワー類が一九〇円と…

「金の蔵jr.」池袋西口公園前店

最近話題の激安チェーン居酒屋だが、実はまだ行ったことがない。ちょっと観察してこようと、出版社の編集者といっしょに行ってみた。西口公園に面した場所で、銀座ライオンと同じ建物の二階。座席は意外にスペースに余裕があり、せせこましい感じはまったく…

毎日新聞・特集ワイド

九月二四日の毎日新聞夕刊に、登場しました。記者といっしょに恵比寿の「恵比寿横丁」へ行き、飲みながら話したことがまとめられています。結論は「横丁を壊しちゃいかんのです!」リンクを張っておきますので、ご笑覧ください。 http://mainichi.jp/select/…

ザルツブルク「ムンデンハーマーブロイ」

この日、音楽祭は午前一一時からのマチネーだけ。どうも天気が悪い。一日中雨模様で肌寒く、朝の最低気温は一〇度。というわけで、少し買物した後はしばらくホテルでごろごろし、夕方からレストランへ出かける。続けてコンサートを聴いていたので、夜ゆっく…

ザルツブルク「ガブラーブロイ」

モーツァルトハウスで「ドン・ジョバンニ」を見たあと、シュターツ橋を渡って新市街へ。そのまままっすぐ進んでしばらく行くと、左側にあるのがこのレストラン。ここも名前の通り、ビールがメインのレストランである。音楽祭会場から近く、ホテルも併設され…

ウィーン「バイスル」

途中、音楽祭を二日ほどお休みしてウィーンへ。どこかで地元の料理でも食べようかと入ったのが、この店。シュテファン大聖堂の近くで、地元客が大部分。ここで、ビールを飲みながらグーラッシュとターフェルシュピッツをいただく。 オーストリアのビールは、…

ザルツブルク「スティーグル・ブロイ」

八月下旬、ブログの更新をお休みさせていただいた。その間何をしていたかというと、実はザルツブルク音楽祭へ行っていた。音楽祭については別のブログを参照していただくとして、こちらは当然、酒の店を紹介することにする。 最初に宿泊したのは、スティーグ…

「新宿ライオン会館」

新宿の三越裏にある「ライオン会館」は一九三九年創業。現存するライオンでは、おそらく一九三四年に建てられた銀座七丁目店に次いで古く、規模も地下一階から七階までと大きい。新宿が繁華街として急成長をとげていた時期に進出を果たしたということだろう…

静岡「青葉おでん街」

次に、大通りを隔てた場所の「青葉おでん街」へ。もともと屋台の置き場だった場所が、露店整理でそのまま飲食店街になったという小さな横丁だが、何ともいえない風情がある。ここでは、「藤の家」と「なごや」を梯子する。 狭い通路の斜め向かいどうしの二つ…

静岡の横丁と「三河屋」

静岡へ戻ることにした。目指すは、横丁の居酒屋だ。 静岡には古い居酒屋横丁が多いが、その起源は戦争直後の屋台である。繁華街を東西に二分する青葉通りとその周辺には屋台が林立し、最盛期には百軒近くになったが、後に規制で移転を余儀なくされ、六八年ご…

清水「河よし」

次に向かったのは、駅から五分ほど歩いた場所にある「河よし」。店構えと内装に関する限り、冴えない平凡な居酒屋だが、メニューが違う。手の込んだ料理が二〇数種類あり、どれを試してみても、長年料亭に勤めたという主人の腕が冴えわたる。 たとえば枝豆豆…

清水「金の字・本店」

翌日は、まだ日が高い時間から清水へ。まず入ったのは、駅前にある「金の字」。B級グルメブームに乗って生まれた清水の新しい名物はモツカレー、つまりカレー味のモツ煮込みだが、この店はその発祥の地である。二代目主人の杉本重義さんによると、モツカレ…

日本エッセイスト・クラブ編『'10年版ベスト・エッセイ集』

日本エッセイスト・クラブが毎年、さまざまな新聞・雑誌に掲載されたエッセイから五〇編程度を選んで編むベスト・エッセイ集。今年は二次にわたる予選で一二〇編の候補作が選ばれ、最終的に五一編が掲載されている。 出版社からの掲載依頼で驚いたのだが、私…

『古典酒場』vol.9

静岡居酒屋の旅の途中ですが、本の紹介を。居酒屋ムック『古典酒場』の9冊目となります。倉嶋編集長独立後、最初の号で、デザインも少々変わりました。今回の特集は「ホルモン酒場」で、もつ焼き・もつ煮込み・モツ刺し・鉄板焼きなどの店が満載。リレーイン…

静岡「橋」

静岡が日本酒の銘醸地として広く認められるようになったのは、最近のことだ。今では吟醸酒の質の高さで定評があるが、その立役者が、静岡県工業試験場で開発された静岡酵母である。この酵母を使った酒は、華やかさを誇示するというより、ふんわりした品の良…

静岡「鹿島屋」

次に向かったのは、七月にも行った老舗の「鹿島屋」。創業は一九二八年で、現在の主人・角田光春さんは三代目。この店の初代と「多可能」の初代は、近くの酒問屋でいっしょに修行したことがあり、その縁で両店は今でも親しい間柄なのだという。 名店として並…

静岡「多可能」

二泊三日の予定で、静岡へ。七月にも訪問したばかりだが、今度はさほどの用事もなく、もっぱら居酒屋が目的である。 静岡は城下町だが、駿府城の天守閣は早くに失われ、残る御殿や城門も明治に入って取り壊されたから、壕と城壁以外は残っていない。一九四〇…