橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

2009-01-01から1ヶ月間の記事一覧

「東京五人男」(本木荘二郎制作・斎藤寅次郎演出・1945年)

1945年に制作され、年末には上映(一般公開は46年正月から)されたという映画。占領軍の指導の下で作られた「民主主義啓蒙映画」のひとつだが、撮影時期が時期だけに、復興どころかまだ一面の焼け野原にバラックが建ち並ぶ東京の姿がリアルに映し出され、配給…

大塚「幸司忠」

庚申塚から都電荒川線で大塚へ。大塚には、「串駒」「江戸一」「きたやま」という三大名店がある。もともと有数の三業地で、池袋以上の繁華街だった歴史があるとはいえ、今ではかなり地味な存在であるこの町に、都内でも屈指の名店が三つもあるというのも、…

庚申塚「庚申酒場」

「おふく」を出て、都電荒川線の庚申塚方向へ。交差点の少し右側に、灯りがみえる。吉田類の「酒場放浪記」でも取り上げられたので、ご存じの方も多いはず。古い一軒家の暖簾をくぐると、L字型のカウンターだけの小さな店内。メインの料理は串焼きと煮込み…

巣鴨「おふく」

今日は、大学で雑用。しばらく研究室を留守にしていたので、書類や郵便がたまりにたまっている。思いのほか手間取ってしまい、終わったときはもうすっかり真っ暗。その後、ふと思い立って巣鴨へ。以前、巣鴨に住んでいた知人のSさんから教えてもらったこの…

「八昌」

私はお好み焼きを、好んで食べることはない。しかし、近所に名店といわれる店があって、酒もひと通り揃っているとなれば、話は別。それがこの店、農大通りの「八昌」である。店主は広島の「八昌」本店で、七年間修行してから、この店を開いたとのことで、本…

「琉球ホルモン 経堂店」

最近、さほど規模の大きい会社ではないのに、多数の業態を同時並行的に展開する飲食店チェーンが増えている。この店も、そうしたチェーン店の一つで、経営するのは店舗プレミアム(株)という東京の会社。名前の通り、ホルモン専門店で、ホルモン(この店の場合…

「もつ煮込み 沼田」

調布にあるという「やきとり処 い志井」という老舗のもつ焼き屋には、まだ行ったことがない。この店が、複数の業態を使い分けながら、各地に進出している。とくに、もつ焼き中心の立ち飲みチェーンのさきがけである「日本再生酒場」は、高度成長期のテイスト…

「池林房」

新宿三丁目の裏手は、心ひかれる居酒屋の多い界隈である。いちばんの先輩格は、歌声酒場のさきがけとしても有名な「どん底」で、一九五一年の創業。一杯飲み屋ややきとり屋しかなかった当時は珍しい、いろいろな酒と料理を出す本格的な酒場だったという。当…

佐藤和歌子『悶々ホルモン』

酒の本の出版が、あいかわらず多いが、先日も書いたように最近のトレンドは大衆酒場とB級グルメ路線。本書もそのひとつということになるが、書いたのは、一人で焼肉を食べに行くのを無上の喜びとする二八才の女性フリーライターというところがユニーク。その…

「らかん茶屋」

今日は、出版社との打ち合わせ。いつもなら池袋あたりへ出るのだが、ゲラが出てくる予定なので遠出して酒を飲むのは少々不安。そこで、経堂まできてもらうことにした。経堂駅の南口に出て農大通りに入り、一〇〇メートル歩いたところから右の小路に入り、す…

正月の銀座ライオン

今日は、今年はじめて都心に出た。まずは明治神宮へ行き、初詣、ではなく、初詣風景を観察。四日だというのに、まだ人出がかなり多い。賽銭を投げ入れる先は、賽銭箱ならぬ巨大なビニールシート。賽銭を投じたあとの出口がないので、終わった人は人波をかき…

山縣基与志編『歌が聞こえてくる 東京ガード下酒場』

居酒屋本にも、トレンドがある。地酒ブームが始まったころは、地酒をいろいろ揃えたのがいい居酒屋だとされ、銘酒居酒屋の紹介が多かった。太田和彦氏が登場してからは、居心地の良さや伝統が重んじられるようになった。景気がよかった時期には、懐石風の良…

金沢「菊一」

金沢では「高砂」「赤玉」とならぶ、おでんの老舗。香林坊の交差点近く、109のそばにあり、場所はわかりやすい。L字型カウンターとテーブル二つほどの小さな店で、親父さんと女性が二人で切り盛りしている。おでんは、一〇〇円から六〇〇円まで。例外は…

「なんで、や」金沢木倉町店

昨日行った「鏑木」の斜め向かいに、ティーケーエス・グループの「なんで、や」があった。金沢に店を出したことは知っていたが、木倉町の入り口という好ポジションである。金沢に、モツ焼を食べながらホッピーを飲むことのできる店が出現というわけである。…

金沢「鏑木」

今日は、義父母の金婚のお祝いで、ヤミ市時代の名残をとどめる飲食店街・木倉町にあるこの店で夕食会。洋風が基本だが、和や中華の要素も取り入れるレストランである。本日の献立は、オードブル四点盛りに始まって、サラダ、スープ、蟹クリームコロッケ、伊…

金沢「黒百合」

能登を後にして、三泊の予定で金沢へ。金沢へ行ったときは、短時間でも必ず一度は立ち寄ることにしているのが、この店。金沢駅ビル内にあり、店を出て一分で改札をくぐることができる。旅人たちがよく訪れるが、市民の常連客も多い。店の中央に大きなコの字…

珠洲市「龍泉」

寿司屋や料理旅館の類は別とすれば、奥能登には本格的な料理店は少ない。そもそも人口が少ないし、うまい魚介類は魚屋から買ってきていくらでも食べることができるから、なかなか商売として成り立たないのだろう。そんな環境にあって、素晴らしい日本料理を…

能登町「日本海倶楽部」

内浦湾に面した眺望のいい場所にある、奥能登唯一の地ビールのブルワリー&レストラン。ビールは、ピルスナー、ヴァイツェン、ダークラガーの三種類で、いずれもグラスが四六〇円、ジョッキが七五〇円。ピルスナーは香りがよく、ややボディがあって、じっく…

謹賀新年

皆さん、明けましておめでとうございます。 ブログを本格始動して、一年半。昨年のアクセス数は、二八一九〇一。予想外に多くの人々に訪れていただきました。念願の著書『居酒屋ほろ酔い考現学』(毎日新聞社)も出版され、趣味と研究を兼ねた「居酒屋学」の道…