橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

2008-05-01から1ヶ月間の記事一覧

三軒茶屋「戎参」

一仕事終えたので、運動不足の解消も兼ね、自宅から三軒茶屋まで歩く。距離は、五キロほどだろうか。一時間少々で到着する。まず向かったのは「久仁」だったが、五時半頃だったので、すでに満員。そこで新しい店でも開拓しようかと、例の世田谷通りと玉川通…

阿佐ヶ谷「まにわ」

今日は、テレビ東京のHさん、ライター・紀行家のYさんと待ち合わせ。Hさんのお勧めのこの店は、阿佐ヶ谷の北口を出て飲食店街を抜け、少し歩いた住宅地にある。店主の間庭順子さんは元OLで、勤めを辞めた後いくつかの店で修行して、この店を開いたとのこと。…

四ツ木「吉か」

今日は出版の打ち合わせで、四ツ木へ。まあ、打ち合わせと称した飲み会というのは、昨日と同じだが、今日は本のタイトルを決めるという重要な課題があった。この日には決まらなかったが、メールのやりとりなどで、「居酒屋ほろ酔い考現学」に決定。七月はじ…

「萬屋松風」

今日は出版社との打ち合わせで、池袋へ。これまでの担当者が他社に移ったので、新しい担当者を紹介したいとのことで、とくに実質的な打ち合わせのようなものはなく、要するに飲み会である。この店は、講談社との打ち合わせにも、何度か使った店。日本酒をい…

醜くくなる銀座

最近、海外のブランドショップが増えるとともに、銀座の街並みがどんどん醜くなっていく。ディオールのビルは、まるでビルの駐車場だし、プラダの店の前にはコールガールにしか見えない女の巨大な写真が掲げられている。銀座には「銀座フィルター」があると…

銀座「ささもと」

門前仲町の「大坂屋」のところでも紹介したが、明治中期の貧民街に関する優れた(といわれる)ルポルタージュに、松原岩五郎の『最暗黒の東京』(一八九三年)がある。ここに、当時のもつ煮込みについて「煮込──これは労働者の滋養食にして種は屠牛場の臓腑、肝…

「tanacalm」

近所に最近できたバー。ギネスの樽生と、アイリッシュウイスキー数種類を置いていて、広い意味ではアイリッシュパブといっていいだろう。店名は、店主の名字と「静けさ」という単語を掛け合わせたもののようだ。ギネスは、パイントとハーフパイントを選べる…

「銀座ライオン 銀座七丁目店」

ひと月ぶりに行ってみたら、ビールが値上げされていた。前は小グラス五八〇円、中ジョッキ七九〇円、大ジョッキ九九〇円だったが、それぞれ六三〇円、八四〇円、一〇五〇円に。特に小グラスの値上げ率が八・六%と高い。いつも小グラスばかり飲んでいるから…

「くいものや楽」経堂本店

今日の多彩な居酒屋チェーンの先駆けとなったのは、この「くいものや楽」だろう。居酒屋チェーンといえば、セントラルキッチンから運ばれたものを、さほど技術もないアルバイトが温め直すか簡単に調理して出す。しかも、どの店へ行ってもインテリアからメニ…

音羽「太郎」

暖簾と貼り紙の「もつ焼き」「キッコー宮焼酎」「ホッピー」という文字を見れば、下町大衆酒場かと思ってしまうが、ここは旧小石川区(現・文京区)の音羽通り。護国寺の駅を出て、車の走る音羽通りを見渡すと、まるで海へと向かう大河のようだ。ここは両側を…

中野「第二力酒蔵」

広く知られた魚料理の名店。広い壁面は、ありとあらゆる魚料理のメニューで埋め尽くされていて、値段も幅広い。まぐろ大とろ・中とろは「二九五〇円より」とあるが、おそらく一流寿司屋クラスのものを使っているのだろう。同じくまぐろの中おちは一四〇〇円…

世田谷「酒の高橋」

世田谷区役所のあるあたりの地名が世田谷区世田谷で、最寄りの駅は東急世田谷線の世田谷駅。世田谷線は、渋谷と二子玉川を結ぶ路面電車だった玉川電車(玉電)の支線として生まれたもので、三軒茶屋と下高井戸の間、約五キロを結んでいる。現在でも環七を渡る…

下北沢「楽味」

この店は、下北沢南口のすぐ近く、三井住友銀行の地下にある割烹料理店。前回来たのは、一昨年の八月だったから、ずいぶんになる。下北沢の南口一帯は、下り坂に沿って若者たちの集まるスポットが密集し、通行人のほとんどが若者という他に例を見ない個性的…

「スーダラ節 わかっちゃいるけどやめられねえ」(弓削太郎監督・一九六二年)

青島幸夫原作で、川口浩と川崎敬三が演ずる新入社員を中心に、当時のサラリーマン風俗が描かれる。川口浩は農家の息子で、家族は「早う出世してな。お前の学資に売り払った田んぼを買い戻すんだぞ」と送り出す。川崎敬三は水上生活者の息子で、やはり家族は…

祐天寺「ばん」

この日の二軒目は、祐天寺の「ばん」。二月に続いて、二回目の訪問。驚いたのは、店主も店員も、私のことを覚えていたこと。大繁盛店だというのに、ご主人は手が空くと客に話しかけ、いろいろ気を遣ってくれる。三人の中国人女性もチームワークよく働いてい…