橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

2007-07-01から1ヶ月間の記事一覧

「加賀屋」

そういえば、池袋の「加賀屋」は行ったことがなかったなと思って、寄り道。池袋には「加賀屋」が二軒あるが、これはビックカメラ本店の裏手の店。入り口が狭く、急でしかも狭い落ちそうな階段を上って二階へ。ちょっと不安になったが、中は意外に広く、イン…

「TOKIO古典酒場・昭和下町和み酒編」

四月に出た第一号に続き、第二号である。今回は下町酒場の飲み物、焼酎ハイボール、ホッピー、デンキブラン、ホイスの店を中心に紹介する。ちまたにあふれている居酒屋本の中には、足(と肝臓)で新たな店を開拓しようという意欲もなく、すでに広く知られた店…

赤坂「まるしげ夢葉家」

今日は全国居酒屋紀行のオフ会で赤坂へ。何と六〇人も集まった。太田和彦さんにお会いするのは、これが初めて。偶然テーブルが同じになり、お話しすることもできた。 この店に来るのは初めて。料理は、カツオのたたき、イワシのなめろう、キスの西京漬けなど…

『天国と地獄』(黒澤明監督・1963年)

製靴会社の重役、権藤(三船敏郎)のもとへ、息子を誘拐した、身代金三〇〇〇万円をよこせと電話がかかってくる。誘拐されたのは息子ではなく、息子と一緒に遊んでいた別の子どもだったのだが、権藤は身代金を支払うことを決意する。警察が大人数を動員して警…

「マルキ市場」

今日は久しぶりに焼肉。自宅から歩いて五分ほどのところにある「マルキ市場」である。前回も紹介したが、この店には入場料というものが設定されていて、一律八〇〇円。その代わり、料理や飲み物は格安になっている。今日はまず、食前のスープ代わりに参鶏湯…

祖師谷「たかはし」

小田急線の祖師ヶ谷大蔵を北側に出て、商店街を少し歩く。スーパー「オオゼキ」の手前を右へ。通りの右側に、この店はある。創業は一九五〇年で、現在の店主は二代目。息子さんと二人で切り盛りしている。このあたりでは有名なやきとん屋である。祖師谷には…

「つるかめ食堂」

今日は朝から青空が広がる。失敗を極度に恐れる気象庁の発表はまだだが、梅雨明けに間違いない。期末試験が終わった。採点はこれからだが、まあ一区切りついた。 というわけで、今日は昼食にビールを飲むと決めていた。どこにしようか。大学のある江古田には…

「会社物語」(市川準監督・1988年)

主演はハナ肇。クレージーキャッツのメンバーが、それぞれ定年近くのサラリーマンという役柄で登場する。登場人物の名前も、ハナ肇は花岡始、植木等は上木原等、谷啓は谷山啓といった具合。 丸ビルに勤めるハナ肇は、さえないサラリーマン。同期の連中が、そ…

貝原浩『世界手づくり酒宝典』(農山漁村文化協会・1998年・1400円)

貝原浩は、天才だった。とくに、人の顔を描くのが巧かった。いつも墨と筆の入った筒を持ち歩いていて、興が乗ればどこでも人の似顔絵を描いた。居酒屋で飲んでいても、カレンダーの裏や本の見開きにさっと描いて見せた。あれだけの実績を持つ画家であるにも…

「きくや」の「鶏ハラミ」

鶏ハラミは初めて食べた。一般にハラミというのは、横隔膜のこと。サガリと呼ぶこともある。牛のものなら焼肉屋でよく見かける。カルビによく似ているが、軟らかく、脂はやや少なめで、値段は安い。解剖学的にいうと横隔膜はほ乳類の特徴で、鳥類にあるのは…

中野「加賀屋」

今日は某区役所で、住民台帳から1000人分もの住所と名前を書き写すという重労働をし、疲労困憊のあまりふらふらと中野へ。「魚の四文屋」でアジのなめろうをつつきながらビールを飲み、ほっと一息ついてから「加賀屋」へ。開店直後だが、すでにカウンターは…

「太田尻家」

経堂駅から北側に出て、すずらん通りを行く。五分ほど歩くと、左側に「灯串坊」があり、さらに三分ほど歩くと、右側にこの店がある。店名は「おおたじりけ」と読む。太田さん・田尻さんのご夫婦が二人で営むことから付いた名前である。店のインテリアは、椅…

「灯串坊」で飲む「釈云麦」

夜、原稿をもって「灯串坊」へ。推敲しながら、串焼きを食べ、焼酎をいただく。塩の串焼きは、右から順に、シロ、タン、カシラ。相変わらず、旨い。これで九〇円だから、ありがたい。そして焼酎は、福岡の麦焼酎、「釈云麦(じゃくうんばく)」。麦の香りが強…

自家製ジン

ジンとは、スピリッツにジュニパーベリーをつけ込み、もう一度蒸留したもの。だからゴードン・ジンの瓶などをみると、ラベルにジュニパーベリーの絵が描かれている。ところが、これがボンベイサファイヤの瓶になると、さまざまなハーブの絵が描かれていて、…

「画廊萬家」「最上」「第二宝来家」

今日は、『吉祥寺「ハモニカ横丁」の記憶』を書いた井上健一郎さんと池袋の東急ハンズ前で待ち合わせ。井上さんとは、今回が初対面。大学を卒業し、新潟で会社員をしておられるが、いまでも足しげく東京に通ってヤミ市研究を続けているとのこと。そこで本人…

「のとだらぼち」

今日は、高校の同級生二人(うち一人は、私の妻だが−笑)と「のちだらぼち」で待ち合わせ。ここは、能登の企業家たちが出資しあって作った能登料理居酒屋である。「だらぼち」とは「ばか者」というような意味で、要領が悪く、鈍で、真っ正直な人間のこと。外堀…

思い出横丁「一富士」

思い出横丁の中ほどの西側には、古くから営業していて、良心的な値段で、しかもまあまあ入りやすい店が数軒並んでいる。ここは、その一軒。ビールはサッポロ黒ラベルの中瓶が五〇〇円、焼酎・酎ハイは四〇〇円、個々の料理の価格は明示されていないが四〇〇−…

吉田類『酒場のオキテ』(青春出版社・2007年・552円)

忙しくて、飲みに行けない。それで今日も、酒の本です。 酒場詩人として知られる吉田類さんの新著。タイトルにはあまり意味がない。前半は、浅草、下町、都心、新宿・中央線と都内各所の酒場街を概観していく。歴史や人情を織り込みながらの語り口はさすがだ…

小林章夫『パブ 大英帝国の社交場』(講談社・1992年・600円)

英国のパブというのはまだ行ったことがないが、「居酒屋考現学」を提唱する私としては避けて通れない。本書は11世紀頃のインやエールハウスといった前身から説き起こし、現在(といっても15年前だが)に至るまでの歴史を描いたもの。とくに、その社会的機能が…

ある焼鳥屋

名前は、あえて記さない。経堂駅から歩いて一分のところにある焼鳥屋だが、このあたりでは珍しく、ブルーカラー労働者が客の中心である。私はときどき、帰り道でホッピーを飲みに立ち寄る。 今日いた顔見知りの常連らしい三人の客の会話である。仕事によって…

「天羽乃梅」

先日は四ツ木で下町ハイボールを堪能してきた。この下町ハイボールの多くに使われているエキスが、この「天羽乃梅(てんばのうめ)」である。原料は「砂糖・酸味料・香料・着色料・保存料」とあり、無果汁。そのままなめてみると、思ったほど甘くなく、酸味と…

四ツ木「吉か」

「ゑびす」の次は、あらかじめ目をつけておいた「吉か」。藤原さんの酔わせて下町にも取り上げられていて、自家製ブレンドの酎ハイというのに惹かれたので、場所を確認しておいたのである。店に入ると、左側がカウンターで、奥にはテーブル席。まずは酎ハイ(…

四ツ木「ゑびす」

五〇〇〇〇カウント記念にどこで飲もうかと、少し考えた。いい機会だから、前から行ってみたかったところへ行ってみよう。というわけで、都営地下鉄を大江戸線、新宿線、浅草線と乗り換え、さらに京成線で荒川を渡り、四ツ木へ。ここへ来たのは初めてである…

五〇〇〇〇カウント御礼

これを書いている時点ではまだ四九七八三カウントですが、おそらく今日中に五〇〇〇〇に達するでしょう。驚きの数字です。こんなに多くの人に人に見ていただけるとは。今晩は東京のどこかで一人、祝杯を挙げさせていただきます。さて、どこにしようか。お薦…

千歳烏山「なんで・や」

二軒目はどこにしようかと、千歳烏山の町をしばし徘徊。見つけたのが、この店である。立ち飲みの串揚げ屋「なんで・や」。串揚げは、うずら、タマネギ、シシトウ、椎茸などが一〇〇円、イカ、とり、海老、ロースなどが一五〇円。お約束の「ソース二度づけ禁…

千歳烏山「福家」

今日は大学で仕事を終えたあと、印刷屋との打ち合わせで千歳烏山へ。なぜかここに、わが武蔵大学御用達の格安印刷屋があるのだ。打ち合わせは一〇分ほどで終わり、その後は当然、居酒屋を物色する。見つけて入ったのが、この店。北口の西友の並びにある。 モ…

「コントワー松喜」

いちおうフレンチとしておいたが、ここはフレンチと和を融合させた店である。オーナーシェフの菅沼豊明氏は、「料理の鉄人」で鉄人・中村孝明に勝ったことがあり、経堂にこの店と、正統派フレンチの「グラン・コントワー」をもつ。本日のコースは、まず前菜…

浅草橋「むつみ屋」

浅草橋の東口の近く、銀杏岡八幡神社の斜め向かいにあるこの店、どこにも紹介されたのを見たことがないのだが、けっこう名店だと思う。なにより、雰囲気がいい。写真の店構えを見ただけで「おっ」と惹かれる人もいるのではないか。間口が広く、入って右側に…