橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

2007-05-01から1ヶ月間の記事一覧

「銀座化粧」(成瀬巳喜男監督・1951年)

成瀬巳喜男の映画としては、全盛期の少し前に位置する作品で、さほど評価は高くないのかもしれない。しかし、冨田均はこの映画を「東京映画ベストテン」の第二位に選んでいる(ちなみに一位は、小津安二郎の「一人息子」)。戦災から復興したばかりの銀座がよ…

「きくや」

今日は仕事帰りに、すっかりお気に入りになったやきとり横丁の「きくや」へ。まず頼んだのはハイボール、そしてタレ焼き四本。上から順に、レバ、アブラ、シロ、オッパイ。レバとシロはどこのモツ焼き屋にもあるが、アブラとオッパイは比較的珍しい。アブラ…

山科けいすけ『C級サラリーマン講座』

ビッグコミックに連載されている四コマ漫画だが、最近知って、最新のものを二巻だけ買って読んでみた。現実味のないただのギャグが中心だが、リアリティがあって哀愁を感じさせるものもいくつかある。そして、そんな作品には、しばしば場末の酒場が登場する…

トルコ料理「ソフラ」

今日は、神楽坂のトルコ料理店「ソフラ」でディナー。飯田橋から神楽坂を登って坂の中ほど、毘沙門天脇の道を左に入ったところの二階にある。この店は、トルコ大使館の肝いりで作られたとのことで、平日の夜に来ると、トルコ人を含む接待の客をよく見かける…

「新日の基」

今日は、出版社との打ち合わせで有楽町のガード下へ。初めて行く「新日の基」である。ガード下のかまぼこ型の空間を上下に仕切った半地下と中二階の二つのフロアがあり、かなり広い。インテリアは普通の大衆酒場だが、店の主人は英国人で、店員にも外国人が…

生桜海老

仕事のあと、新宿・やきとり横丁の「きくや」へ。ここはうまいモツ焼と刺身を同時に食べられるという、私にとっては貴重な店。柑橘系とハーバル系の香りのする不思議な味のハイボールも、三〇〇円と安くて美味しい。今日は、モツ焼を少し食べてから、旬の桜…

「ニッポン無責任時代」(古沢憲吾監督・1962年)

高度経済成長期の初め頃、数多く作られたサラリーマン喜劇映画の代表作のひとつ。先日亡くなった植木等の調子の良さが何ともいえない作品だが、全体に占める酒場のシーンの割合がかなり高い。出てくるのは、銀座のバーとビアホール、新橋の料亭だが、写真に…

経堂純情酒場 太陽堂

経堂駅ホームの南側、線路沿いを西に入ったところに細い道がある。ここには、イタリアンやフレンチ、焼鳥屋やラーメン屋など十数軒の飲食店があるが、そのいちばん西よりの建物の二階にあるのが、この店。強いて分類すれば無国籍居酒屋ということになろうが…

『かわら版 人世横丁』

この冊子は、人世横丁商店会がその歴史と現在をまとめたものである。5月15日の『朝日新聞』によると、この横丁がかつて色町だったとする本があり、これを客から見せられた商店会の会長さんが「すごく悔しかった。何とかして活字で正したかった」と、まとめる…

「いも神」

今日は夜九時まで研究会があり、どこへ行こうか迷ったが、結局は地元・経堂の「灯串坊」へ。いつもの通り、カシラを塩で、シロをタレで。酒は、キープしてあった「いも神」。鹿児島県出水の神酒造が作るいも焼酎だが、原料に少量の麦を加え、さらに二年熟成…

豪徳寺「祭邑」

世田谷は、居酒屋におけるモツ焼の比重が小さい地域である。これが「山の手」ということなのか、モツ焼を出す店自体が少ない。そのなかでうまいモツ焼を出す店はあるにはあるが、層が薄いだけにレベルの低い店もあり、ムラができるのは仕方がないのかもしれ…

新橋駅前ビル地下街

編集者たちと別れ、もう一軒と、新橋駅前ビルの地下街へ。ここは、ビルの中の飲食店街と言うよりも、地上の飲み屋街がそのまま移設されたかのような雰囲気だ。横には小さな路地のような通路すらあって、呑兵衛好みの場所である。それもそのはず、ここは王長…

「虎ノ門 升本」

今日は、新聞社の人と出版の打ち合わせで虎ノ門へ。あわただしく急用を終えて、池袋から向かったのだが、有楽町線に乗って永田町で銀座線に乗り換えればいいだろうと思っていくと、乗り換えの遠いこと。半蔵門線のホームを端から端まで通り抜け、さらに歩く…

ラズウェル細木「酒のほそ道 呑ん兵衛散歩」

ラズウェル細木の「酒のほそ道」は、これまで読む機会がなかったが、もう二〇巻まで出ているというくらいだから固定読者の多い人気マンガなのだろう。今回読んだ「呑ん兵衛散歩」は、その中から都内各所へ少し遠出をして飲み歩くというストーリーを集め、取…

消えた下北ガード下

久しぶりに、下北沢へ。まず北口市場へ行って、ガード下のおでん屋「せっちゃん」のその後を確認しに行くと、写真の通り、すでに取り壊されていた。淋しい気持ちを抑え、すぐ近くの同じような雰囲気の店へ。作りも広さも、よく似ている。聞いてみると、この…

「第二宝来家」

今日は、新宿やきとり横丁で、『闇市の帝王』(草思社)の著者である七尾和晃さんと待ち合わせ。店は「第二宝来家」である。七尾さんとは、実は初対面。読書日記にこの本の評を書いたところ、ご本人からていねいなお礼のメールをいただいて、それではお会いし…

「たそがれ酒場」(内田吐夢監督 1955年 新東宝)再論

この映画については四月二六日に紹介したが、いくつか補足をしておきたい。この作品は、戦地から半死半生で帰ってきた内田の復帰第二作。内田は自伝『映画監督五十年』で、その脚本について「健康な大衆酒場の一日の出来事が、たった一パイのセットに盛り込…

新宿の闇市

ゴールデン街のところでも書いたが、敗戦直後、新宿には大規模な闇市が形成された。新宿東口には尾津組の「竜宮マート」、南口よりの方には「和田組マーケット」、西口は安田組の「民衆市場」。店の数は、許可を受けたものだけで約六五〇、実際には三〇〇〇…

浅草「神谷バー」

煮込み通りの次は、やはり、ここ。「浅草一丁目一番一号、日本一古いバー」というのが宣伝文句のこの店は、一八八〇年に一杯売りの酒屋として、一九一二年に洋風の「神谷バー」として、神谷傳兵衛によって創業された。最初は日本酒を出していたが、若い頃働…

浅草・煮込み通り

ふと思い立って、浅草へ。ゴールデンウィークの浅草は、家族連れや観光客が多く、浅草にもこんなに人が集まることがあるのかと思うくらい賑わっている。もちろん、外人客も多い。天丼や蕎麦、お好み焼きなどの有名店の前は、長蛇の列。しかしこちらは、取材…

「楽旬堂 坐唯杏」

「坐唯杏」と書いて、「ざいあん」と読ませる。池袋駅からだと、豊島公会堂の右脇の細い路を入り、首都高の下に出る手前の左側。バロックコートという建物の地下にある。ちなみに、反対側には蕎麦中心の別館「池袋居酒屋・下剋上 ざいあん」も。この店、一時…

信州ビール事情

日本のビール市場は、基本的にキリン、アサヒ、サッポロ、サントリーという大手四社の寡占状態である。ビール類全体のシェアでは、キリンとアサヒが熾烈なトップ争いをしているが、発泡酒等を除くビールのみでみれば、完全にアサヒの圧勝で、そのシェアは五…

信州「レストラン オラホ」

昼食のあと立ち寄ったのは、この地ビールレストラン。小高い丘の上にあり、オラホビールのブルワリー併設。隣には湯楽里館という温泉施設や大きな売店もあって、このあたりの主要な観光スポットになっているようだ。ちなみに「オラホ」とは、地元の言葉で「…