橋本健二の居酒屋考現学

居酒屋めぐりは私の趣味だが、同時にフィールドワークでもある。格差が拡大し、階級社会としての性格を強める日本社会の現状を、居酒屋に視座を据えて考えていきたい。日々の読書・音楽鑑賞の記録は、「橋本健二の読書&音楽日記」で公開中。社会学専攻、早稲田大学人間科学学術院教授。

2007-04-01から1ヶ月間の記事一覧

信州「ヴィラデスト・ガーデンファーム・アンド・ワイナリー」

連休も忙しいのだが、一泊二日で信州の温泉に休養に行く。途中、立ち寄ったのが、玉村豊男経営のこのワイナリーのレストラン。ここで、ランチコース三五〇〇円をいただく。パテとクリームチーズのアミューズのあとは、野菜を中心とした前菜盛り合わせ、そし…

「きくや」

西口やきとり横町の店。やきとり横町は、ヤミ市直系といった趣の思い出横町ほどの独特の情緒には欠けるが、安くて良心的な店が多い。この店も、その一つ。焼きトン、焼鳥ともに、一本一〇五円である。ビール大瓶が五〇〇円、大生六八〇円、中生四五〇円とい…

「たそがれ酒場」(内田吐夢監督 1955年 新東宝)

一つの大衆酒場の開店から閉店までを舞台に、そこで繰り広げられる多彩な人間模様を描いた作品。カメラは、酒場の内部から一度も外に出ることがない。いくつもの短いストーリーが並行して展開されるが、主役級といえるのは、絵を通じて戦争に加担した責任を…

「ネップ・モイ」

先日の続きである。歌舞伎町の「清瀧」の後は、タイ料理店に入って食事をした。味は普通で、安くもなかったので、店そのものは紹介しない。紹介したいのは、ここで飲んだベトナムのスピリッツである。アルコール度数は三九・五度。黄色糯米を主原料に、ウイ…

アルコール健康医学協会編『シリーズ酒の文化』全四巻

「日本の酒の文化」「世界の酒の履歴書」「酒の社会史」「酒と現代社会」の四巻からなる、酒と文化についての総合的な講座もの。三〇編の論文を収め、合計でおおよそ七五〇ページ。空前絶後の企画といえるだろう。酒と古典芸能、落語と酒、短歌・俳句と酒、…

「清瀧・歌舞伎町店」

「清瀧」は埼玉の酒造メーカーの経営だが、池袋の三店舗など一〇店しかないという、比較的小さな居酒屋チェーン。そのためか、チェーン臭さが希薄である。料理も、見るからにセントラルキッチンで作られたというようなものは少ない。ホワイトボードに今日の…

「番番」「TOKIO古典酒場」

三月二五日の座談会の様子が掲載されたムックが出た。三栄書房の「TOKIO古典酒場」である。「鈴傳」「みますや」「魚三」「大はし」などといった定番を押さえたうえで、「神谷酒場」「遠太」「万世橋酒場」「秋田屋」といった大衆酒場や焼鳥屋、それに…

「赤堤」

小田急線経堂駅の南口を出てすぐの雑居ビルの地下には、居酒屋や飲食店が数軒並んでいるが、その中の一軒。店名の「赤堤」とは近くの地名で、豪徳寺から経堂にかけての高級住宅地。駅前の割には寂れた感じのこの地下街のなかでは、いちばん元気な店である。…

山本淳子「源氏物語の時代」

これを「酒の本」に入れるのは、少々無理があるかもしれない。にもかかわらず紹介するのは、著者が私の掲示板である「居酒屋とり橋」の常連、紫式部こと山本淳子さんだからだが、しかし理由はそれだけではない。本書には、宮廷の住人たちの飲みっぷりや酔態…

「はかりめ」

三原通りと三原小路に面した銀座五丁目のビルの六階にある、穴子料理の店。店名の「はかりめ」とは、表面に等間隔の白い斑点のある穴子の姿を、棒秤に見立てた呼び名とのこと。店長の近藤さんは、妻の旧知の人物で、ソムリエの資格を持つ。料理はほぼ純和風…

「銀座ライオン 銀座七丁目店」

久しぶりの、昼の銀座ライオンである。着いたのは午後四時過ぎだが、満席で少し待たされた。とはいっても、客の回転は速く、二−三分ほど。まずはいつもの通り、生小グラスを注文。四三〇ミリリットルの小グラスは、五八〇円。私がこの店に通い始めた二〇年前…

「おふろ」

二軒目に向かったのは、「おふろ」。前回来たのは去年の七月だから、だいぶご無沙汰である。今日は、何となく赤のグラスワインという気分だった。しかしこの店、ボトルワインは一〇〇種類以上もあるのに、赤のグラスワイン(一〇〇〇−一二〇〇円)はわずか五種…

「鳥たけ」

五時半頃に仕事を終え、新宿で京王新線に乗り換えて下高井戸へ。向かったのは、「鳥たけ」。前回も書いたが、ここは旨い焼き鳥と刺身が両方味わえる、このあたりでは貴重な店。まずはビール、そしてレバ、首肉、つくねを注文する。付け出しは、鳥皮と厚揚げ…

「なぎら健壱の東京居酒屋 夕べもここにいた!」

『サンデー毎日』の連載記事をまとめたもの。あまたの居酒屋本との違いといえば、正統派居酒屋や料理の美味い店だけでなく、フォーク酒場やらカントリー酒場やらが登場するところ。私自身は、この手の店に行きたいとは思わないのだが、著者の個性がよく現れ…

木の芽

今のマンションに引っ越してきて何ヶ月かたったとき、妻が庭に七−八センチほどの小さな山椒が生えているのを見つけた。鳥が種を運んできたのだろう。わずか数枚しか葉をつけていなかったが、端の方を少しちぎってつぶしてみると、確かに木の芽の香りがした。…

「みますや」

二軒目に向かったのは、やはり「みますや」。 今日は金曜日の夜だけに、仕事を終えたサラリーマンの比率が高い。連れられてきた同僚女性たちを含めれば、会社帰りの人々でほぼ占拠されている趣である。この店で、神田の古い居酒屋の情緒を味わいたいというな…

須田町「けむり」

今日は、出版社との打ち合わせで小川町へ。行ったのは、燻製料理の店「けむり」である。須田町一丁目のこの一角は、奇跡的に空襲の被害を免れた場所で、あんこう鍋の「いせ源」、鳥鍋の「ぼたん」、甘味処の「竹むら」などがある。「いせ源」の隣にあるこの…

休肝日と脂肪肝

このブログを見てくださっているなら、4月6日のこのニュースに、いささかヒヤリとしたという方も少なくないだろう。 <休肝日>多ければ死亡率低下 厚労省研究班4月6日20時33分配信 毎日新聞 酒量の多い人では、酒を飲まない「休肝日」の多い人の方が、休肝…

鶏もも肉のたたき

先日は、奥能登で地震があった。幸い、私の郷里である珠洲市ではさほどの被害がなかったが、母親の実家のある輪島市では、かなりの被害があった。電話がほとんど通じなくなっていたので、現地の人から何通か「大丈夫だったよ」メールが来たが、時々買い物し…

20000カウント御礼

アクセス数が20000を超えました。10000を超えてから、2ヶ月ほどしかたっていません。感謝と驚きでいっぱいです。皆さん、ありがとうございます。まだまだブログをはじめて日が浅いので、紹介する居酒屋が地域的に偏っているのが気になります。葛飾以南の下町…

「和食れすとらん 天狗」志村二丁目店

「天狗」は、私がいちばん好きなチェーン居酒屋である。もっとも、最近ではチェーン居酒屋が多様な進化を遂げているので、現時点ではさほどの魅力はない。しかし、私が居酒屋めぐりを始めた一九八〇年代後半には、他のチェーンを引き離していた。まず酒が旨…

「まるます家」

今日は、王子の飛鳥山公園へ花見に行く。飛鳥山は、八代将軍吉宗が桜を植えさせたところから始まる、古い花見の名所。当時から上野の山も花見の名所だったが、ここは江戸の鬼門を守る寛永寺の境内だけに、酒と歌舞音曲が禁止されていた。このため、飲めや歌…